目指すは、病院と在宅医療のシームレスな連携 医療法人 あおい会あおいクリニック 医師|梅田喜亮

昔ながらの町並みが残る大阪府八尾市に2010年開院した「あおいクリニック」。梅田先生は大病院の勤務医から、2016年春に在宅医として入職。
携帯型レントゲン機材やエコーの導入による医療機器のパワーアップで、在宅では難しいと思われがちな腹水や胸水の処置も行い、「入院を希望されない患者さんにも病院と同レベルの医療を在宅で提供する」ことを目標に日々頑張っています。
エネルギッシュに在宅医療と向き合う梅田先生の思いと理想に迫りました。

9月9日公開の姉妹サイト ココメディカより転載(在宅医療を応援する情報サイト ココメディカ
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▲梅田 喜亮(うめだ・のぶあき)先生
医療法人 あおい会 あおいクリニック 医学博士
鳥取大学医学部卒業、大阪市立大学大学院医学研究科修了。呼吸器科の医師として大阪市立大学医学部付属病院、馬場記念病院、和泉市立病院、育和会記念病院、ベルランド総合病院にて勤務。2016年4月、あおいクリニックへ入職。

病院勤務医から在宅医へ転身

—先生、お若く見えますね!いつから在宅医に?

今年で38歳になります。実は今春2016年4月に、このクリニックに仲間入りさせてもらった“ひよっこ”の在宅医です(苦笑)。それまでは、大学付属病院や臨床研究指定病院で呼吸器科の専門医として、がん治療などの高度医療に携わり、また研修医を育てる指導医として、後輩ドクターの学会発表に向けた論文研究のサポートなどをしていました。

—そのまま勤務医として、キャリアを磨く選択肢もあった?

確かに、病院での仕事にもやり甲斐は感じていました。新薬や最新の医療器具にも恵まれ、環境面・待遇面も申し分ありませんでした。だけど、高度急性期病院の医師は入院された重症患者さんを治療してご自宅へ帰すことが最大のミッション。
終末期や慢性期などで、療養型病院へ転院する患者さんを送り出すことも多い中で、「あの患者さん、大丈夫かな」と気になっても最期まで診ることが叶わず、自分の中で完結しないまま次の重症患者さんを診るという繰り返しに正直、矛盾を感じるところがありました。

そんな時に、あおいクリニックの前院長から「志を受け継ぎ、病院で培った専門知識と経験を訪問診療で発揮してほしい」とお声がけいただいたんです。6年前に開設したクリニックの継続が、ご家庭の事情と体調的なものも重なり困難になり、200名以上の患者さんを任せられる後任ドクターを探しておられたということでした。
何度かクリニックの皆さんと現場へご一緒させていただくなかで、患者さんのために医療スタッフ一丸となって朝から夜中まで汗する姿に、衝撃と感銘を受けました。「僕も“チームあおい”の仲間に入れてください!」と衝き動かされるような熱い想いが湧き上がったんです。

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▲「まだまだ訪問診療医としては経験不足なんですよ」と謙遜する梅田先生。だからこそ訪問先での患者や家族との会話を大切に“寄り添う医療”を実践している

機材と体制が整えば大半の治療は在宅でも可能

—現在の“チームあおい”のメンバー構成を教えてください。

ドクターは2人。私と外科系のドクターがお互いの得意分野を生かし、患者さんを分担しています。さらに、放射線技師1人、看護師2人。往診相談があった際の応対、訪問診療のスケジュール管理、診療車両の運転対応までしてくださる相談員3人の合計8人体制です。

—常勤の放射線技師まで!?

はい、患者さん宅でレントゲンとエコーの機材を持ち込み、技師と一緒に検査も行います。例えば、進行性の肺がんや感染症で胸水が溜まった患者さんの処置をする場合、水を抜いた後の状態確認はレントゲン撮影が一番早くて確実ですから。訪問先で溜まった胸水や腹水を抜く処置をすると「そんなことまで在宅でできるの!?」と訪問看護師さんにもよく驚かれます。

—在宅医療の限界はない?

もちろん、MRIや造影CTなどの高度医療機材を使った検査はできません。足りない物品を薬剤部へ電話1本かけるだけで届く病院のような便利さもありません。ですが、エコーとレントゲン検査はできる、心電図も計測できる、患者さん宅で採血してそのまま検査に提出することもできる、抗菌剤などの新薬も積極的に購入して使用することができる。「病院ならできる・クリニックでは難しい」と僕自身も病院の医師だった頃は勝手に線引きしていたのかも知れません。
でも実際は、必要に応じた機材・薬剤・管理体制が整えられたら、病院でできる大半の治療は在宅医療でも可能なんだと分かりました。

医師としての欲をいえば、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や脳梗塞後遺症の患者さん向けのカフマシーン(喀痰排出補助装置)、終末期の患者さんのための24時間体制の薬剤投与の充実(シリンジポンプなど)が在宅でも可能になれば、パーフェクトに近い。これらの実現には、機材や薬剤の導入はもちろん、訪問看護師さんの協力が不可欠。少しずつ焦らず体制を整えていけたらと考えています。

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▲梅田先生が着任してから、より一層充実した医療機器。現場での使いやすさ、患者の負担軽減を重視して放射線技師や看護師と相談しながら選んだ。

病院に入院せずに完治・完結できる医療を目指して

—病院と在宅のドクターの差は何でしょうか?

医師として活躍のステージが変わるだけ。患者さんの医療をどの現場で実践するのか?という違いだけだと思います。病院で働いていた頃は、入院患者さんが歩いてご自宅へ帰れることを目標にしていましたが、在宅医である今は「病院へ自力で通えない」「入院したくない」という患者さんを、入院しなくても完治・完結できる医療を目指すようになりました。

病院とは違う忙しさ、充実感も感じています。1日に15軒前後の患者さん宅を往診するのですが、お昼ご飯を食べずに待ってくださっていたり、玄関先で膝を折るように深々とお辞儀して見送ってくださったり、こちらが恐縮することばかり。だからこそ「忙しさを言い訳に漫然と流すような診察になっては絶対にダメだ」と肝に銘じています。1回ずつの処置をきちんと評価し、次の治療プランを立てる。その繰り返しを丁寧にやってゆくつもりです。

最近は、看護師さんから「火曜日に熱が出ていた患者さん、もう一度念のため診に行きませんか?」「次の訪問日はまだ先ですけど、週末に採血だけでもしておきますか?」と提案してくれることも。チームワークに恵まれていることにも感謝しています。

—逆に、課題を感じていることは?

僕たちは最期まで診させていただこう!と心に決めていても、患者さんの容態が変わってご家族が混乱され、最終的に救急車を呼んで病院搬送されるケースが度々あることです。365日24時間体制とはいえ、ずっと患者さんの家で見守ってあげられるわけではありませんから、患者さんとご家族の不安な気持ちも分かります。
ただ、実は重篤な容態急変ではないことも少なくないので、在宅医と患者さんのコミュニケーションがより密になれば、病院への救急搬送を必要最小限に減らせるのではないかと思っています。

クリニックから病院へ働きかける地域連携パスを

—在宅医療と病院は今後どう連携すべきでしょうか?

例えば、ターミナル(終末期)の患者さんが緩和ケアに移行する切り替えタイミングでの連携ですね。病院でできる対処はやり尽くしました、後は在宅でお願いしますとなってからでは遅いし、病院から患者さん・ご家族へのアナウンスも十分とは言えないのが現状です。

今はまだ通院治療できているけれど、数ヶ月後には体力が落ちて難しくなる可能性が高い。そんな、できるだけ早い段階から在宅診療のドクターとの併診体制を整えて、病院とクリニックがシームレスに連携できるのがベストです。

—患者さんと家族にとっても理想的ですよね

病院のドクター時代に、呼吸器の専門医として肺がん患者さんを近隣クリニックの先生と併診する「地域医療連携クリティカルパス」を経験したことがあるので、逆アプローチでクリニックから病院へ働きかける地域連携パスも実現可能だと私は思っています。

例えば、がん末期の患者さんが抗がん剤治療等で病院通いをしている段階から併診に関わらせてもらい、副作用に応じた治療と心身のケアを僕たち地域のかかりつけ医が引き継ぎ、両方の医師がカルテを共有できるシステムを構築する。そして、患者さんのADL(日常生活動作)が落ちた場合は訪問診療で対応し、逆に白血球の数値が急激に落ちたら病院でフォローするなど、お互いの医師が確認・相談しながら、患者さんにとってベストの医療を模索する。「患者さんのために」を大前提に医療の仕組みと連携を考えるべきです。

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▲“チームあおい”を牽引してきた高瀬美生さん(看護師長兼理事)と岩橋保さん(本部長兼相談員)。「梅田先生の医療技術の高さ、患者さんの心を掴む人間性は見事!」と声を揃える

患者と家族の意思決定をサポートするのも在宅医の役割

—患者さん・ご家族とのコミュニケーションで大切にしていることは?

近いうちに容態の変化が起こる可能性がある患者さんの場合は、往診を終えて帰るに、必ずご家族へ病状のアナウンスメントをします。「もう数週間するとポータブルトイレに自力で移れなくなるでしょう」「ご家族のご助力を今まで以上に必要とします」「痛みを訴えたら、この薬を追加してください」など、できるだけ具体的にお話しをします。
患者さんの側で最期までお世話をするご家族に、一番多くの情報を届けるべきだと僕は思うんです。

その上で、ご家族が「先生、覚悟を決めました!家族みんなで看取ります」とおっしゃってくださったときは、本当にもうドクター冥利に尽きますね。身震いするほどの感謝と、この患者さんと家族を全身全霊でお支えしたい!という気持ちでいっぱいになります。

患者さんとご家族が、きちんと知識を持って決断することが大事で、そのサポートができるのも在宅医療を担うドクターの役割の一つなのだと最近、感じるようになりました。

—在宅医と患者さん、家族のような距離感なんですね

実は僕“おばあちゃん子”で、このクリニックがある八尾市は祖母の家があった懐かしい地域でもあるんです。僕が医師を目指したのも中学生の時に病気で亡くなった祖母に何もしてあげられなかった無力感がきっかけ。だから、在宅医として、あの頃の祖母と同じ年代の患者さんたちを通じて恩返しを叶えさせてもらっているような気持ちもあるのかも知れませんね。

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▲相談員の方々は200名を超える患者さんの誕生日を把握し、気を遣わせない、気持ちを明るくするような愛らしいプレゼントを用意。さりげない小さな気配りも喜ばれている

チーム一丸となって医療を支える充実感も在宅医療の魅力

—在宅医療にこれから取り組もうとしている医師へメッセージをお願いします

「訪問診療では自分のやりたい医療ができない」と思い込んでいる病院ドクターがいたら、違う!と声を大にしたいですね。僕自身、病院で積み重ねた経験や技術で捨てたものは一切ありません。むしろ、在宅医療に携わって得られることの方が多いですし、挑戦したいことにスピード感をもってトライアルできる実践的な医療現場です。
医師として誰かの役に立ちたい、自分の力を発揮したい!もっと患者さんに関わりたいという人は、ぜひ在宅医療の世界へ飛び込んでください。

取材後記

梅田先生がクリニックの一員となって半年で「チームの絆が一層強まり、医療レベルも劇的に向上しました」と声を揃える“チームあおい”の皆さん。患者さんとご家族を前にしても変わらないであろう、その打ち解けた明るい雰囲気と結束力が素敵でした。1年後、3年後、5年後とクリニックを訪ねるたびにパワーアップしていそうで楽しみです!

◎取材先紹介

医療法人 あおい会 あおいクリニック
大阪府八尾市高町2−43
TEL:072−999−1616 FAX:072−999−1616
http://aoiclinic-yao.com

取材・文/野村ゆき、撮影・前川 聡

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