40歳で在宅医療に出会えたことに感謝医療法人 聖授会 緑・在宅クリニック 医学博士|清水 一亘

生まれ育った北摂エリアでアイデアとフットワークを強みに、医療機関や訪問看護ステーション、ケアマネージャーなどの他職種と密接に連携を図り、理想の在宅医療を追求する清水医師。院長就任当初、30名だった同クリニックの患者数を2年後の現在では200名へと伸ばし、“自宅での看取りのできる先生”と地域から高く評価されています。
「在宅医療は本当に面白い仕事です」とモチベーション高く取り組む清水医師に、仕事のスタンスとやりがい、地域との連携などについてお話を伺いました。

9月16日公開の姉妹サイト ココメディカより転載(在宅医療を応援する情報サイト ココメディカ
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▲清水 一亘医師
医療法人聖授会 緑・在宅クリニック 医学博士

昭和50年生まれ、兵庫県川西市出身
京都大学薬学部を経て大阪市立大学医学部卒業後、市立吹田市民病院内科、
大阪府立成人病センター血液・化学療法科、大阪大学医学部附属病院血液・腫瘍内科に勤務。その後、平成26年4月緑・在宅クリニック院長に就任

“自宅で看取ってくれる先生”と地域から感謝される存在に―在宅医療に興味を持ったきっかけについて教えてください

私は主に白血病や悪性リンパ腫をはじめとする血液のがんの病気を診ていました。悪性の病気に長く携わるなかで在宅での看取りに興味を持ち、縁があって現在のクリニックで診療しています。在宅や緩和に関しては全くの素人からのスタートでした。

―在宅医療に関しては初めてだったのですね

最初の頃はよくわからなかったですが、半年位してからやりがいを感じるようになりました。「こんな楽しい仕事があったのか!」と40歳にして在宅医療に出会えたことをとても感謝しています。

―具体的にどんな点に楽しさを感じましたか

私にとって楽しさは2つあります。1つは患者さんからダイレクトに気持ちが伝わること。ご自宅を訪問して患者さんの生活を知り、深く関わりながら最期まで見届けられることです。

もう1つは病院や訪問看護ステーション、ケアマネージャーなど周囲の人たちに、とても感謝されること。最期まで自宅で看取ってくれる医師が少なく、なかには患者さんとうまく関係が構築できない場合もあるとよく聞きますが、私は看取りまで長くサポートさせていただいています。訪問看護師やケアマネージャーは、患者さんが希望するならできれば自宅で看取ってあげたいという熱い思いをもっている人が多いです。
これまでなら最後は病院に行っていた患者さんが、緑・在宅クリニックが介入することで自宅での看取りができたと喜ばれるのです。また、急性期病院からの紹介で受け入れた患者さんに関しても元の病院に再入院をお願いするということが少ないので、病院の先生や看護師さん、地域医療連携室の相談員さんなどからは“自宅でちゃんと看取ってくれる先生”ということで感謝されますね。

―それで患者さんの数も増えていますか

当初は30名程度でしたが2年経った今は200名になりました。ほとんどが連携している病院や訪問看護ステーション、ケアマネージャーさんからの紹介です。自分たちがやっていることが認められた成果だと思うと嬉しいですね。

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「アイデア・フットワーク・協調性」の3つが大切

―在宅医療をうまくやっていくポイントはありますか

大切なことは3つあります。
1つ目はアイデアです。病院には医療器具も人材もそろっていますが、在宅の場合は医師や看護師が常駐しているわけではなく、使える薬も限られています。例えば1日500mlの点滴をする場合、看護師が点滴の針を刺して終わるまで待機して針を抜いて帰る方法が一般的ですが、ゆっくりとした速度で点滴をして家族に抜針をお願いすることもできれば、皮下に輸液を入れてじわじわと体内に吸収させる方法を選択することもできます。最近、皮下輸液は在宅医療で推奨されているもので、血管に針を刺していないため、トラブルが少ないことが特長です。
それ以外にも方法はまだまだあり、その中からその患者さんにとってベストな方法を選択するのです。限られた条件のなかで自分なりにアイデアを考えて実践できる人に向いていると思いますね。

―残りの2つについて教えてください

2つ目はフットワークです。とにかく腰の軽い医師でなければ務まらない仕事です。患者さんから電話をもらって往診するのは当然ですが、私の場合は電話を待つのではなく、体調が悪そうだと思ったら「昨日訪問してお薬を変えましたが今朝の体調はいかがですか」と朝一番に電話を入れます。
患者さんには「何かあったら電話をしてください」と伝えていますが、遠慮をされる方もたくさんおられるので実際に連絡をもらうことは少ないですから。こちらから電話をすれば非常に喜ばれますし、私も不意のコールが少なくなるので負担が軽減され、予定が立てやすくなるメリットがあります。

3つ目は協調性。他職種連携と言った方が近いかもしれません。私はなるべくクリニックで仕事を抱え込まず、病院や訪問看護ステーション、ケアマネージャーなど外部の施設やスタッフと連携をして長期的に事業を継続することを心がけています。

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他職種の意見を否定せず、まずはやってみる

―他職種連携の具体的な取り組みについて教えてください

特に訪問看護からはよく電話をもらいますが、そのときになるべく相手の提案を受け入れるようにしています。少なくとも私より患者さんと一緒にいる時間が長く、よく知っているので、その中での意見や判断なら1回やってみようと。自分では考えつかないことをできるので勉強になるし、うまくいったら次からその方法を取り入れることもできます。ですから他職種からの提案をできるだけ否定せず、受容して実践するようにしています。

―初めからそういった姿勢で取り組んできましたか

当初は患者さんを増やしたいという気持ちで、とにかく地域の病院や各施設に挨拶まわりをして患者さんを紹介していただきました。私にとっては大切なお客様であり、自然とそういう姿勢が身についてきたのだと思います。最近では質問をされた時には逆に、「どうしたらいいと思う?アイデア教えて!」と聞き返すことも多いです。

―今でも頻繁にコミュニケーションを取っていますか

例えば「患者さんがトイレに行けなくなった」「痰が多くなった」など問題が起きたとき、私はできるだけ自分一人ではなく、いろんな職種のスタッフを巻き込んで解決するようにしています。もちろん、自分の負担を軽減することにも繋がりますが、携わっているスタッフたちも「患者さんのために何かしたい」という気持ちが大きいと思うからです。

また、時間があるときには訪問看護ステーションなどに積極的に顔を出します。「あの患者さんはどうしている?」など直に話ができることは楽しいし、とてもためになります。電話だけでなく、日頃からよく顔を合わせている関係なら仕事もスムーズですから。ときには飲みに行くこともありますが、まだ顔を知らない人も多いので、もっとみなさんをお誘いしたいですね(笑)。SNSを使って連絡を入れたり、相談を受けることも日常的です。直接会わなくても手軽にコミュニケーションが取れ、親密になれる点ではいいツールだと思います。

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いかに穏やかに旅立っていただけるか

―これまでに印象に残っているエピソードはありますか

膵臓癌のターミナルで紹介いただいた60代の男性はどうしようもなく頑固で亭主関白な人だったんですが、奥さんは献身的に介護を続けていました。亡くなる1カ月前に「よくご飯を食べていますね」と話しかけると「こいつ(奥さん)がつくる飯がうまいから、よく食べられるんや」とポロッと漏らしたんです。今まで感謝の言葉なんか聞いたことがなかったのに……と奥さんはびっくりしていました。そんな夫婦や家族の関係性を見ながら穏やかに在宅看取りをできたことが、とても感慨深かったですね。患者さんにはいろんなタイプの人、家庭環境の人がいますが、いかに穏やかに旅立っていただくかが、私の使命だと思っています。

―もっと在宅医療に従事する人が増えるといいですね

本当にそう思います。24時間365日体制というのがハードルになっていますが、前述したように患者さんに1本電話を入れるなど自分のやり方次第で時間を自由に活用できます。現在、常勤医は私1人ですが、2名体制になったらパラダイスだと思いますよ(笑)。
とはいえ、当クリニックの看護師や事務にも負担をかけているのでスタッフを増員したり、体制づくりを工夫して、みんなが定時に帰り、ゆとりを持って長期的に働ける環境をつくっていきたいですね。

これから在宅医療に関わる人へメッセージ

—最後に、在宅医療を目指す医師へメッセージをお願いします

私のクリニックであれば休みの希望にいくらでも乗りますし、連続して3週間くらい海外旅行に行くことも可能です。オンコールはありますが、時間の使い方は病院より自由にできると思います。在宅医療は自分が考えて行動することで多くの人から感謝され、地域医療への貢献をダイレクトに感じられる仕事です。患者さん一人ひとりの生活にも深く関わり、スタッフや他職種の人とも密に連携をしながら、病院では経験のできない醍醐味を実感してみてください。

ライター取材後記

「40歳で在宅医療に出会えたことに感謝します。今はこの仕事が面白いと感じていますね」と取材の始めから終わりまでエネルギッシュに語る清水医師に、私たちもパワーをもらいました。こうやって患者さんに元気を与え、周囲のスタッフのやる気を高めていることが手に取るように伝わってきます。
もちろん、仕事での苦労はたくさんあると思いますが、それを物ともせず、地域のために役立ちたい気持ちで、ひたすら取り組んでいく姿勢には尊敬の念を抱くばかり。清水医師のような人が地域でネットワークを構築し、よりよい在宅医療の在り方を創造していかれることを期待したいですね。

◎取材先紹介

医療法人聖授会 緑・在宅クリニック
豊中市少路1-7-21(介護付有料老人ホームメルシー緑が丘1階)
TEL:06-6852-6886
http://midori.seijukai.jp/

 

取材・文/藤田 美佐子(オフィスゆきざき)、撮影・井原 完祐

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