医療連携室との連携に専門スタッフを。ベストな地域連携を実現するポイントとは。 ‐医療法人社団颯心会 茜在宅クリニック 院長 小林夏木

東京都東村山市は、西武新宿線・西武拝島線・西部池袋線といった7つの西武鉄道とJR武蔵野線が走る、東京多摩地区北部の都市です。2015年に東村山市に新しくできた茜在宅クリニックは、最寄り駅の八坂駅からは中央線国分寺駅まで電車で10分強、また西武新宿線の久米川駅からは高田馬場駅までも20分強で行くことができるなど大変便利な場所にあります。同クリニックでは24時間体制の看護センターも併設しており、東村山市はもちろん多摩地区における主要な在宅療養支援診療所として地域医療を提供しています。

今回は院長の小林先生に、多摩地区の在宅医療の現状についてなどお話を伺いました。

 

4月7日公開の姉妹サイト ココメディカより転載(在宅医療を応援する情報サイト ココメディカ

 

<ドクタープロフィール>

▲医療法人社団颯心会 茜在宅クリニック

 院長 小林 夏木(こばやし・なつき)先生

大学卒業後、大学病院など総合病院に20年間勤務。2005年から在宅医療に従事し、2015年から茜在宅クリニック院長に就任。

地域全体で患者を見守ることができる体制を整備

現在の提供サービスについて教えてください。

現在当院では、東村山市を中心として東久留米市、小平市、立川市といった多摩地区全般において在宅医療サービスを提供しています。診療の幅は広く、認知症、がん末期の緩和ケア、在宅での看取り、ターミナルケアの方はもちろん、高齢のために足腰が弱くなり病院への通院が困難な方なども含めて幅広い症状の対応をしています。24時間の看護センターも併設し夜間救急対応なども行っている他、災害医療センター、東京病院、公立昭和病院、多摩北部医療センターなどと医療連携を行い、緊急時もすぐに症状に適した病院・診療科と連絡をとり入院病床を確保するなど、入院医療機関と在宅医療機関の連携を密にすることでスピーディに処置を行うことができる体制を整えています。

 

もともと先生は、総合病院にお勤めだったそうですね。

総合病院の循環器科などで20年ほど診療を行っていました。その時は心臓病や肺炎、脱水症状などで入院している高齢者の方々を担当することが多かったのですが、患者さんや家族の方ともっとじっくり対話ができる診療を行いたいと思い、12年ほど前にずっと興味があった在宅医療の分野に飛び込みました。

病院勤務の頃と診療スタイルがかなり違ったため、最初はやはり戸惑いましたね。ですが今は、在宅診療がとても私の性にあっているのでしょう、この世界に来て良かったと感じています。以前は患者さんの人柄を知る機会はほとんどありませんでしたが、今は患者さんやご家族とじっくり会話を交わしながら診察を行っています。

 

在宅医療の特徴を一言で言うと?

在宅医療は、医師による診療や処置だけでは成り立ちません。看護師やケアマネ、介護施設・看護施設のスタッフなど、様々な医療従事者と連携して総合的な医療サポートを行うことが大切です。地域全体で見守る体制を整備することが大前提ですので、当院では特に、「医療連携室スタッフ」という専属のスタッフを配置し、外部機関との連携を強化しています。

 

関連施設や行政とも提携し医療連携を強化

医療連携室との連携に専門スタッフを置いているクリニックは少ないですよね。

東村山市には、在宅医療を知らないという方が一般の方に限らず介護施設でも多くいらっしゃいます。そこで私たちは、医療連携室スタッフが中心となって積極的に他施設との連携・広報活動を行っています。その際にはスタッフが定期的に施設を伺ってコミュニケーションを取るだけではなく、利用者の年齢層や症状、利用期間など活用事例を伝える勉強会を関係者向けに開催するなど、在宅医療の現状を理解していただける様々な活動を実施し医療連携を強化しています。

また、地域住民へ対しても在宅医療の存在を広めるために東村山市と一緒に広報活動も行っています。

 

地域の方向けにはどんな取り組みをされているのですか。

行政が発行する地域新聞などで告知を出して、「在宅医療の活用事例」などの勉強会を開催しています。例えば認知症のご夫婦の場合、病院に連れて行こうと思ってもなかなか行こうとしてくれないケースがよくあります。そういった際に、在宅医が架け橋となり、まずはご自宅に伺って診療を行ったり、患者さんと様々な話をすることで心を開いていただいたりするなど、具体的な事例を含めて話をしております。参加者は毎回100名程度と、市民の在宅医療へ対する興味・関心の高さを感じますね。だからこそ私たちは、行政や医療関連施設とも連携し、沢山の必要としている方々に地域医療を提供できる体制を作っていく必要があると考えています。

 

本当に、沢山の方々が関心を持っているのですね!

東村山市には市営住宅が多数あるため、独居の方も比較的多いのです。先日も、ご自宅でうつ伏せの状態で倒れられたまま2日間が経過し、ご家族の方が見つけて緊急搬送されたという事例がありました。まだまだ私たちのサポートが届いてない所が沢山あるはずですので、行政やケアマネとの連携を強化し、必要な場所に必要な診療を提供できるような体制作りを進めていきたいと考えています。

▲ケアマネージャー向けに勉強会を開催されたり、反対に様ざまな勉強会に積極的に参加し情報を収集されている。「お互いに情報を出し合って意見交換をするのはとても良いことだと思っています。」と小林医師。

 

IT化によって顔が見えるチームに

スムーズな地域医療提供のために心がけていることなどありますか。

在宅医療はチーム連携がポイントです。当院では様々な部分でIT化を図っており、効率的に情報共有できるように様々な工夫を行っています。

 

具体的にはどんなものでしょうか。

在宅医療では、医師もスタッフもクリニックの外に出て診療や活動を行うことが多いため、1日に顔を合わせる時間が大変少ない点が気になっていました。電話でもコミュニケーションは可能ですが、やはり全員で顔をあわせて話ができる場を作れないかとスタッフと相談し、現在は朝・昼の2回、映像付きのチャットサービスによってスタッフ全員の顔が見える状態で申し送りを行っています。これによって、院外にいるスタッフも含め全員が情報共有する場を作ることができ、チームの連携も深まっています。

 

確かに、情報共有はチーム医療にとって重要ですよね。

そうですね。医師も含めてスタッフ全員が同じ気持ちで医療サービスにあたることが、在宅医療の質向上に繋がると考え、当院では積極的にIT化を進めております。

 

医師である前に同じ人間である気持ちで接する

診療に当たって何か気を付けている点はありますか。

どの患者さんとも十分に会話をすることを大切にしています。日によっては1日に10件程度往診することもありますが、どの家庭でも1時間以上話をしています。

そうそう!ケアマネさんから新しい患者さんをご紹介いただく際に、「今回の方は診療を断る可能性がとても大きいのですが、よろしければダメ元でいいので一度会ってみていただけませんか…」と伝え聞いていた方も、私がご家庭に行くと、なぜか心を開いてくれて診療を受けてくださるということが多いですね(笑)。

▲“先生は本当に優しいんですよ。”とスタッフの方から絶大な信頼を得ている小林医師。「院内が楽しくないと患者さんにもそれが伝わりますよね。」と採用の際にもその人が院内のカラーに合うかどうかを重視している。

 

それはきっと先生のお人柄もあるのでしょう。

在宅医療は、設備が整った病院と違って患者さんにしてやれることは決して多くありません。そんな中で一番大事なのは、患者さんの不安を取り除くことだと考えています。私にとって、患者さんの気持ちをしっかり聞くことは信頼関係を作るためのコミュニケーションの第一歩です。お話をしてくださるなら、1時間でも2時間でも話を聞かせていただいています。

 

患者さんとのコミュニケーションは在宅医療にとって大きなポイントですね。

在宅医療は医師が伺って診察を行うため、患者さんや家族の生活環境がすべて見えてきます。ご自宅という相手の懐に入っていくのですから、医師という立場で向かい合っているだけでは、お互いの距離はなかなか縮まらないと思うのです。人間対人間としてのコミュニケーションを大切にして不安を取り除くことが我々の使命だと考えています。

まだまだこの地区には在宅医療を提供するクリニックも少ないのですが、当院が多摩地区におけるロールモデルになれるよう、スタッフ全員で試行錯誤しながらよりよい医療サービスを提供していきたいと考えております。

 

取材後記

取材中、終始にこやかでいらっしゃり、また私どもの話も丁寧に聞いてくださった小林先生。患者さんの不安を取り除くために何時間でも話を聞く姿勢で診療に当たっているとお話しされていましたが、私たちも先生と話すことで何とも言えない居心地のよい時間を過ごすことができました。きっと患者さん達も、小林先生が自宅に来て下さるのを今か今かと楽しみに待っているのだと思います。医師である前に同じ人間であることを大切にし、日々患者さんと接している小林先生は多摩地区の在宅医療にとって欠かせない存在だと感じました。

 

◎取材先紹介

医療法人社団颯心会 茜在宅クリニック

〒189-0024
東京都東村山市富士見町1-14-3 南台シニアセンター1F
TEL:042-390-0023
http://www.akaneclinic.com/

 

<取材・文 ココメディカマガジン編集部 /撮影 菅沢健治>

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