“チーム医療”の可能性に挑み続けたい|医療法人慶春会 福永記念診療所 理事長 高井 俊輔

高井俊輔先生は、10年前の開業当初から在宅医同士がタッグを組んで訪問診療を助け合う“グループ・プラクティス”の理念を掲げ、在宅医療の総合コンサルタントを目的とした「ナチュラルケア・グループ」を創設。そのネットワークは医療組織と地域の枠を超えて繋がり、現在、高井先生が理事長を務める医療法人 慶春会 福永記念診療所をはじめ、関西3クリニック、1病院・関東3(歯科)クリニックが参加。関西だけで3000人を超える患者の訪問診療を行っています。高井先生が在宅医療に取り組むようになった経緯、目指す将来のビジョンなどを語っていただきました。

 

本記事は、プロアスが運営する「在宅医療を応援する情報サイト ココメディカマガジン」より転載しています。
4-3%e3%83%86%e3%83%b3%e3%83%97%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%83%88_6-01

▲高井 俊輔(たかい・しゅんすけ)先生
医療法人 慶春会 福永記念診療所(ナチュラルケア・グループ) 理事長

1975年生まれ、大阪府出身。近畿大学医学部卒業後、同大学付属病院血液内科、城山病院内科勤務を経て、2006年松原たかいクリニックを開設。翌年、同じ志を持つ医師と共にナチュラルケア・グループを設立。2008年医療法人慶春会を設立し、理事長に就任。現在、福永記念診療所の院長として外来診療・訪問診療を行いながら、同グループの理事長としても講演会活動や開業を目指す在宅ドクター支援にも情熱を注いでいる。

病院勤務ドクター時代にヘルプで出会った訪問診療

—在宅医療に取り組み始めた頃のことを教えてください

大学病院の勤務医をしていた頃、休日にヘルプドクターとして訪問診療にかかわったのが、そもそものきっかけです。担当医が体調を崩したり、外来で動けない時にヘルプ依頼があるのですが、当時の僕は20代後半で若く、フットワークも軽かったから頼みやすかったんでしょうね。2年ほどお手伝いをさせてもらいながら在宅医療のイロハを教わりました。
そして、その時点で「訪問診療は複数のドクターで協力しないと体力も気力も続かないのでは」という現実を知ったんです。

—険しい道だと分かったうえで、あえて訪問診療の道へ?

お手伝いさせてもらった2年間に、何人もの患者さんの看取りを医師として経験し、今後「病院ではなく住み慣れた場所で最期を迎えたい」というニーズがますます増えることを確信しました。その思いに応えられるようになりたい!と思ったんです。
だけど、独立・開業しても、一人の医師が手を尽くせる患者数は限られますし、長く続けたくても体力的な限界がいつか必ず訪れます。このままだと、ニーズは増える一方なのに在宅医療を担うドクターの数が足りなくなる!という危機感も突き動かされた要因の一つかも知れません。

—最初からグループ診療を目指して開業を?

10年前に松原たかいクリニックを開業した当初から、「グループ・プラクティス(グループ診療)」を理想のビジョンとして掲げました。お互いに信頼・尊敬できる医師仲間が手を取り合い、在宅医療について共通の目標を持ち、診療を助け合うグループネットワークを創造したかったんです。
そして、僕と同じ大学医学部出身のドクター仲間が「俺たちが在宅医療を変えよう!」と共鳴してくれ、翌年にチーム医療を目指す「ナチュラルケア・グループ」をスタートしました。最初はグループ名なんてなくて、気付いたら仲間と一緒に走っていた感じなんですけどね(苦笑)。

4-3%e3%83%86%e3%83%b3%e3%83%97%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%83%88_1-01

▲30代前半の若さで在宅医として独立開業した高井先生。「一緒にやろう!」と志を共にできた医師仲間の存在が“チーム医療”を形にする原動力になった

理想とする“チーム医療”の体現化まで試行錯誤の日々

—現在「ナチュラルケア・グループ」の規模はどれくらいに?

関西では3つのクリニックと1つの病院がグループに参加していて、常勤医師9人・非常勤医師30人体制。クラウド型電子カルテを活用し、約3000人の患者さんの訪問診療を助け合っています。内科はもちろん、外科、精神科、皮膚科、泌尿器科などの専門医も揃っているので、まさに「動く総合病院」ですね。
各クリニックがグループ内の専門医と連携できることもメリットの一つで、患者さんに提供できる医療の質も格段に上がりました。

医療方針などの意思決定の際には、グループ全体で医局会を開いてディスカッションを重ね、合議制で決めています。グループとしてノウハウのサポートは惜しみませんが、資本的な関係性はありません。上下や主従関係がない、“雇われ感ゼロ”の横並びの繋がりがグループ・プラクティスの目指す姿です。

—チーム医療の体制が整うまで、一番ご苦労されたことは?

訪問診療のオンコール体制を整えるために専門のコールセンターを設置したのですが、専任の訪問看護師たちがトリアージ役となって各クリニックの担当医とスムーズに連携できるまでに約3年。オンコールから対応・処置、担当医へのフィードバックまで、一連の流れがほぼパーフェクト!と言えるまで、さらに2年かかりました。
「3カ月に1回の採血ができていない!?」「約束の時間に患者さん宅や施設に到着していない!?」という具合に、課題一つ一つと向き合い、なんでだろう?どうしたらいいんだろう?と原因・改善策を模索する繰り返し。恐らく、在宅医として開業する多くの医師が最初に直面する課題だと思います。

—どうやって課題を解決されたんですか?

トラブルやミスを突き詰めると、看護師が仕事を抱え込み過ぎていた現実が浮かび上がりました。訪問診療は作成する書類が多く、仕事量が膨大になりやすい。患者さんと向き合える現場が好きで看護職に就いたのに「なぜ事務作業ばかり?」と不満の火種になり、離職率が高まる要因になっていたんです。

そこで、新たに診療補助スタッフを導入。訪問看護の書類作成、往診時の運転、訪問先のケアマネージャーへのヒアリングなどを行うサポートスタッフで、専門知識がなくてもできる仕事を任せるようにしました。

看護師が現場の仕事に集中できる環境を整えることでモチベーションが上がり、より専門性の高い看護を学ぶ向上心も芽生えやすくなったようです。また、診療補助スタッフが仕事を通じて介護職に興味を持ち、ケアマネを目指すようになったケースもあります。
現場を支える看護師や介護スタッフも“チーム医療”を支える大切なメンバー。在宅医療・介護を支える人口が増えれば、業界全体にとって良い相乗効果が必ず生まれます。

4-3%e3%83%86%e3%83%b3%e3%83%97%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%83%88_3-01

▲看護師自身が現場でソリューションできるようになり「今はストレスフリーです」と微笑む高井先生。福永記念診療所で9人の看護師・3人の診療補助スタッフが活躍している。

より専門性の高い在宅医療チームの実現を目指して

—今後の目標やビジョンはありますか?

現在、グループ内の各クリニックを中心に16キロ圏内の訪問診療を分担しているのですが、その枠を飛び越えて活躍するスペシャリトチームを創設したいと考えています。
グループ全体でがん末期の患者さんが20人前後いらっしゃるので、まずは「緩和ケア」チームを早急に立ち上げたい。その次は、「心不全ケア」チーム。水分摂取量だけで容態が急変しやすいため、在宅→入院→在宅→入院の連鎖が止められない現状を何とかしたいんです。

—チーム医療の可能性を追求し続けるんですね

実はもう一つビジョンがあって、当直プラットホームシステムを進化させたいと考えています。既にグループ内では導入済で、3000人の患者さんを2つのエリアで分け、常勤・非常勤を組み合わせて8人ずつの当直医師を輪番制で決定。平日夜・土曜・日曜のオンコールに備える体制を確立しています。

緊急時はコールセンターの看護師から担当医へ連絡が入り、担当医から当直医師へ電話連絡を必ず入れて引き継ぎを行うルールです。休養をちゃんと取ること、知識や人脈のインプット時間を作ることも医師として大切。その間に自分の患者さんに何かあった場合も普段から連携を取り合っている医師なら安心して任せられます。

その当直プラットホームを、グループの枠を超えて、一般の在宅医が利用できるようにできたらと考えています。現在、在宅医療に携わる医師の9割以上がソロ(独立開業医)として頑張っています。
でも、ソロでやっている限り、24時間365日待機のストレスに絶えずさらされ、専門知識をアップデートできる勉強会や学会にも顔を出せない。僕らも開業当初はそうでした。
だから「大きな学会へ参加する数日」「家族旅行をする3日間」という短期の当直希望ニーズに応えられるシステムを構築できたら、在宅医の負担が軽減され、担い手をもっと増やせる気がしています。

後進の在宅医を開業支援する取り組みもスタート

—2016年から「在宅塾」もスタートされたそうですね

開業を目指す勤務医を対象に、医療・制度・経営の3つの柱でノウハウを学べる実践的な場です。大阪・東京で開催していて、4カ月間・全14回のカリキュラム。毎週、テーマを変えて約1時間半みっちりディスカッションします。
2016年2月からスタートし、関西の一期生9人が卒業。そのうち2人の開業が決まりました。さらに関西の二期生が9人、続いて関東の一期生も10人、年内に卒業予定です。

—本格的な開業支援スクールですね! どんな想いから始めたのですか?

超高齢化社会が加速する2025年問題を見据えて、在宅医がもっと増えてほしいという想いです。開業を志すきっかけは人ぞれぞれで、最初から情熱があって計画的に独立開業を目指す人もいれば、実家の病院を継ぐため必要に迫られてという人もいる。全員が最初から在宅医療に対して高い志があるわけじゃないのがリアルな現状です。
でも私は、それでも在宅医療を担う医師が一人でも多く増えるべきだと思っています。そして、「在宅塾」を卒業する頃には、共通の高い志を持つようになっていた!という場にできれば嬉しいですね。

4-3%e3%83%86%e3%83%b3%e3%83%97%e3%83%ac%e3%83%bc%e3%83%88_5-01-1

▲「在宅塾」卒業生の独立開業後も手厚くサポート。「訪問診療だけでなく外来診療も積極的に行うことを僕自身は推奨しています。困ったら助け合えばいいんだから、って」

2025年問題を共に支える仲間がもっと増えてほしい

—ソロの在宅医が増えると、チームを束ねるマネージメント役も必要ですね

今後はそういう総合マネージメント役の医師も増えてゆくべきだと思っています。緩和ケア、栄養サポートなど、専門医を中心にしたチーム医療が在宅でも当たり前にできるようなり、総合内科のメインドクターがオーケストラの指揮者のようにタクトを振って、各チームパートの専門性を活かす。そんな風に役割分担ができるようになれば理想的ですね。

—在宅医療にこれから取り組もうとしている医師へメッセージを。

在宅医が増えれば、今まで行き届かなかった患者さんへ医療を届けることができます。けれど、ドクターの数は、まだまだ十分ではありません。ソロで頑張るドクターがもっと増えてほしいと願っています。医師同士の顔が見える繋がりを確立し、組織や地域を包括した大きなチームとして在宅医療を共に支えましょう。
「在宅塾」では僕も講師の一人としてディスカッションに加わります。1回だけの聴講も歓迎です。今、勤務医をしている人で在宅医療に興味のある人は気軽に問い合わせてください。一緒に語り合いましょう!

取材後記

情熱と冷静さを併せ持つ、高井先生。早くから“チーム医療”を理想に掲げ、診診連携のブラッシュアップにこだわり続けてきた、ブレない志が文句抜きにかっこいいです! 人々を引き付ける磁力のようなパワーが備わっている印象で、大所帯となったグループの医師や看護スタッフを迷いなく牽引している様子は、まさにオーケストラのマエストロ。これからも在宅医療に、新しい風と心地よいハーモニーを運んでください。

◎取材先紹介

■ 医療法人慶春会 福永記念診療所
大阪府大阪市城東区中央1−9−33 泉秀園城東ビル2階
TEL:06−6933−7844(代表)
http://fukunaga-clinic.com/

■ ナチュラルケア・グループ
http://natural-care.co.jp/index.html

 

取材・文/野村ゆき、撮影・前川 聡

プロアスへのお問合せはこちらから

プロアスでは、多数のICTツールや業務効率化システム・サービスなど、病院・クリニック・介護施設の経営のお役に立つラインナップを揃えております。まずは気軽なご相談からご連絡ください。

2 件のコメント

  • With havin so much written content do you ever run into any problems of plagorism or copyright infringement?

    My site has a lot of exclusive content I’ve either authored myself or outsourced but it looks like
    a lot of it is popping it up all over the web without my authorization. Do you know any ways to help prevent content from being ripped
    off? I’d truly appreciate it.

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)