平成18年4月に施行された「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づいて、平成19年より毎年、全国において高齢者虐待への対応調査が実施されています。
今回は厚生労働省より発表された、平成27年度の調査結果を紹介します。昨年度のデータとも比較し、虐待の実情をみてみましょう。
↓ 平成26年度の調査結果はこちら ↓
介護施設で発生する虐待の実情とは!?【平成26年度調査結果】
高齢者虐待は10年にわたって増加傾向
介護施設での高齢者への虐待、また同居家族による夫や妻である高齢者への虐待など、痛ましいニュースを目にする機会も多々あることからわかるように、虐待の数は10年にわたって増加傾向にあります。
介護サービス等を提供している養介護施設従事者による高齢者虐待の相談・通報件数、および虐待と判断された件数はこのように増加しています。
相談および通報件数は昨年度から520件(1.46%)増加し、1,640件と報告されています。
またその中から虐待であると認められた件数は408件であり、昨年度より108件(1.36%)増加しました。
養護者による高齢者虐待の相談・通報件数、および虐待と判断された件数はこちらです。
相談および通報があったのは26,688件と、昨年度と比べると1.03%の増加でした。
またその中から虐待であると認められたのは15,976件であり、昨年度より237件の増加であまり変化はありませんでした。
昨年度からみた増加率を比べると、養介護施設従事者による虐待の増加が目立ちます。
養介護施設従事者による虐待と養護者による虐待の実情を詳しくみてみましょう。
養介護施設従事者による虐待の実態
ここでいう養介護施設従事者とは、介護老人福祉施設など養介護施設又は居宅サービス事業など養介護事業の業務に従事する者を指します。
養介護施設従事者による虐待の相談・通報者は、「当該施設職員」が21.9%と一番多く、次いで「家族・親族」が20%を占めています。
その虐待と思われる行為が行われている場所はこのようになっています。
虐待の種別としては、身体的虐待が61.4%、心理的虐待が27.6%と大半を占めています。
虐待者の男女比は、男性が52%、女性が46.8%となっています。介護従事者全体数の男性の割合は約18%であることを考慮すると、本調査での虐待者は男性の割合が高いことがわかります。
では、虐待をしてしまう理由は何があるのでしょうか?
調査結果はこちらになります。
「教育・知識・介護技術等に関する問題」が約65%も占めていることから、介護をする上で必要な教育が不足していることがわかります。様ざまなキャリアをもつ職員がいることもあり難しいことではありますが、運営側による職場改善が重要であるといえます。
養護者による虐待の実態
ここでいう養護者とは、高齢者を現に養護する者であって養介護従事者以外の者である、家族や親族、同居人のことを指します。
養護者による虐待の相談・通報者は、「介護支援専門員」が29.6%と一番多く占めており、次いで「警察」が17.6%、「家族・親族」が10.3%でした。
虐待者の内訳はこのようになっています。
一番多かったのは「息子」(40%)でした。そして「夫」が21%、「妻」が5.6%、「娘」が16.5%と身近な家族が多くを占めています。
また、虐待を行った養護者との同居の有無では、「同居者とのみ同居」が49.2%と最も多く、「虐待者および他家族と同居」が37.4%でした。
虐待の原因の調査結果がこちらです。
介護を必要している高齢者と2人だけで住んでいる養護者による割合が高いこと、そして「介護者の介護疲れ・介護ストレス」が発生要因の1位であることから、1人にかかる介護のプレッシャーがストレスの原因となり、虐待を引き起こしてしまっているともいえます。
こちらのグラフからもわかるように、養護者による被虐退者のうち65%が、介護サービスを受けていない人、つまり家族からのみ介護を受けている状況です。
養護者による虐待でもっとも怖いのは介護放棄です。
虐待の種別でみると、養介護施設従事者による介護等放棄は12.9%に比べ、養護者による介護等放棄は20.8%と高いことがわかっています。
また、平成27年度に発生した高齢者虐待等による死亡事例は、全部で20件。
「養護者による殺人」が7件、「介護等放棄(ネグレクト)による致死」が6件、「虐待(ネグレクトを除く)による致死」が5件、「心中」が1件、「その他」が1件という結果でした。
参照元:平成27年度 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果(厚生労働省)
まとめ ~職場環境の改善・市町村による体制整備が急務~
いかがでしたか?その他、詳細の調査結果はこちらよりご覧ください。
高齢者虐待件数は悪化の傾向にあります。とくに外部サービスを利用せず大きな負担を背負っている家族による虐待は、介護放棄そして死亡事故という悲しい結末にもつながってしまいます。
いかにして外部のサービスを利用していただくか、そのための市町村の整備体制、そして十分に受け入れるための職場環境の改善、職員の離職率改善が大切になってくるでしょう。