診療報酬改定も行われ、今後日本でも利用が拡大すると予想される遠隔診療。日本では、普及はまだまだこれから…という状況ですが、海外ではどのように活用されているのでしょうか。今回のブログでは、遠隔診療の普及が進んでいるアメリカとEUについて解説いたします。
【アメリカ編】1990年代にはすでに利用されていた!アメリカの遠隔診療
まずはアメリカをご紹介しましょう。現在、遠隔診療の世界最大の市場は北米であり、その多くはアメリカが占めているといわれてます。
アメリカで遠隔診療がこれほど普及しているのは、国土が広大であるために、医療機関や医師にかかることが難しい方でも利用できるよう、早い段階から遠隔診療の整備が進められたことが一因であると考えられます。1993年にはアメリカ遠隔医療学会が創設され、遠隔診療が早期から推進された結果、現在アメリカでは、遠隔診療を提供するネットワークが200ほどあり、3,500か所の施設がサービスを提供しています。
さて、遠隔診療の定義ですが、保健福祉省は使用されている通信技術の種類に焦点を当て以下の4 種類に分類しています。
- 生中継動画:ビデオ会議など、視聴覚通信技術を用い、患者・介護者・プロバイダーのいずれかとプロバイダーとの間で行われる生中継で双方向のやり取りを行います。
- ストアアンドフォワード:X 線画像、CT スキャン、脳波図などのデジタル画像や動画を、安全な電子通信システムを用いて伝送します。
- 遠隔医療患者モニタリング:血圧や血中酸素濃度などの医療データを送信します。主に、生活習慣病の管理を行うのに利用されます。
- モバイルヘルス:健康を促進することを目的に作成されたスマートフォンアプリ。病気にかかる可能性が警告された場合に健康的な行動を取るよう、メッセージを送るものや、患者がケア計画に従えるようにリマインダーを送るものなどがあります。
このように早々に普及が拡大したアメリカですが、課題もあります。まず、州を超えた遠隔診療サービスの提供が困難であること。アメリカでは、医療従事者の資格についての制度が州ごとに異なっており、基本的に医師は免許を得た州の中でしか活動できないこととなっています。ルイジアナ州、ミネソタ州などの一部の州では、州外の医師ライセンスを遠隔診療用に認めているものの、州を超えた運用が難しいのが現状です。
また、保険についても同様の問題が起こっています。民間の保険、メディケイドなどの公的保険のいずれも州ごとに運用されているため、州を越えて遠隔診療を利用してしまうと、費用の払い戻しが難しくなってしまいます。このような理由で、遠隔診療に制限があるのが現状です。
【アメリカ編】豊富なガイドライン&たくさんの管轄機関がポイント!
遠隔診療において歴史のあるアメリカでは、学会などによって様々な実務ガイドラインが作成されています
(1)アメリカ遠隔医療学会のガイドライン
- 小児遠隔医療のための業務手続
- 遠隔リハビリテーションサービス提供のための原則
- 遠隔脳卒中の診療ガイドライン
(2)アメリカ心理学会のガイドライン
- 遠隔心理学の診療のためのガイドライン:
ケアを提供する際にインフォームドコンセントを得るよう努めることや、セキュリティ上の脅威への対処についての指針が示されています。
このように、幅広い領域でガイドラインが作成されていますが、これも遠隔診療の実績が豊富なアメリカならではかもしれませんね。
また、管轄機関が非常に多いことも特徴の一つです。保健福祉省のほか、医療サービスのプロバイダーとして、退役軍人省や国防総省も遠隔医療に関与しています。また、保健福祉省医療資源・サービス局が支援する作業グループFedTelには、26の連邦機関が参加しています。
退役軍人省については、アメリカ連邦政府内では最大のプロバイダーとなっており、地方に住んでおり専門的な医療ケアを受けることが困難な方や、糖尿病や慢性心不全、心的外傷後ストレス障害(PSTD)といった症状をかかえる退役軍人を対象にしたサービスが提供されています。
【EU編】世界2位の市場規模!EUの遠隔診療
つづいてEUの遠隔診療をご紹介します。EUについては、2015年時点で北米に次ぐ世界2位の市場規模となっています。市場規模は年々拡大しており、2011 年には48 億ドルでしたが、2019 年にはその3 倍に近い126 億ドルとなると見込まれています。現在、糖尿病管理、プライマリヘルスケア、精神医学、遺伝学、放射線学、病理学、心臓学など、様々な分野で活用されています。
さてEUでは、遠隔診療はどのように位置づけられているのでしょうか。2008 年に出された「患者・医療制度・社会の利益のための遠隔医療に関する通達」の中で、遠隔診療について「医療専門家と患者(または医療専門家2 人)が同じ場所にいない状況での情報通信技術(ICT)の使用を通じた医療サービスの提供である。」と定義されており、eヘルス(*)や、eヘルスのさらに上位の概念である「デジタルシングルマーケット」の一つとみなされています。
現在EUでは、遠隔診療に関連した戦略がいくつも示されており、普及に向けて積極的に取り組んでいることがうかがえます。2010 年発出の通達「欧州デジタルアジェンダ」では、遠隔医療について「2015年までに欧州市民が自身の医療健康データにオンライン上で安全にアクセスできるようになり、2020 年までに遠隔医療サービスを広く展開させるための試験的行動を取る」という目標が設定されています。
(*)eヘルス:
インターネットなどのIT技術を活用して、健康についての情報を提供したり、健康づくりに関連するサービスを提供したりすること。
【EU編】「国境を越えた」遠隔診療。資格・費用も柔軟に対応!
EUの遠隔診療の最大の特徴は、国境を越えて行われるケースがあること。「EUの機能に関する条約」の56条には、EU加盟国同士でサービスを自由に提供し、市民も別の加盟国から自由にサービスを受けることができると規定されていますが、この「サービス」に遠隔診療が含まれる、ということになります。
国境を越えて自由に受診できる遠隔診療ですが、診察時に発生した費用はどのように負担することになるのでしょうか。「国境を越える医療における患者の権利に関する指令(クロスボーダー医療指令)」では、遠隔診療を別の加盟国で受けた場合、自国の医療保険制度から医療費を払い戻すことができることが定められています。
また資格についても、国境を越えて遠隔診療を行う場合でも特別な資格は不要で、遠隔医療を行うプロバイダーの国の法規に従っていれば、他の加盟国で自由にサービスを提供できます。国境を越えた政治・経済の統合体である、EUの現状に即した、柔軟な体制といえるでしょう。
厚生労働省:「情報通信機器を用いた診療に関するルール整備に向けた研究」研究報告
まとめ
今回はアメリカとEUの遠隔診療についてご紹介しました。一言で遠隔診療といっても、それぞれの地域に合った、独自色のある制度となっていることがわかりました。日本では、どのように遠隔診療が発展していくのか。これから注目したいですね!